DMX 512の基礎

「DMX 512」、通称「DMX」は照明や舞台効果を制御する為の通信プロトコルです。制御信号を発信するコントローラとその信号に反応する機器(デバイス)の通信方式を定める規格です。

DMX 512の歴史

本来、照明効果の制御はアナログ信号によって行われていました。1つの照明器具にケーブルが1本必要だった為、配線がすぐに複雑になっていました。AMX192やD54と言ったアナログ規格がその問題を解決する為に登場しましたが、デジタル通信であれば複数の制御信号を同じケーブルで送る事が出来るだけでなく、コンピュータなどによる制御も容易になります。そのデジタル通信方式を定める規格、DMX512が1986年に誕生し、1990に規格が改訂され(DMX512/1990)、2004年にANSI規格(DMX512-A)となりました。しかし、DMX512規格の幾つかの規定 が多くの照明機器メーカーに無視されたり、適当に解釈されたり、実装に不統一が多いのが現状です。

DMX 512の概念

DMX 512規格は単純且つ丈夫なシステムを目指して作られました。照明器具は最低限なデータ処理だけを行えば、電子基盤が単純になってコストが抑えられ、安定性も高くなります。また、過酷な環境での動作も想定されていたので丈夫さも重視されました。

接続

DMX 512は制御信号を発信するコントローラとその信号に反応する機器があります。コミュニケーションは一方的でコントローラ以外の機器は自ら制御信号を発信する事はありません。

コントローラと機器はデイジーチェーン(数珠繋ぎ)方式で接続されます。直列に接続されていくDMX 512機器は原則としてDMXイン(入力)とDMXアウト(出力)の端子を搭載しています。入力されたデータは次の機器の為にそのまま出力されます。デイジーチェーンの最後に接続された機器はそのチェーンを閉じなければなりません。次に何もないのを認識し、内部で自動的にチェーンを閉じる機器もありますが、一般的DMXターミネーターという道具を最後の機器の出力端子に挿してチェーンを閉じます。ターミネーターを使わなければ通信エラーの原因になります。

DMXのデイジーチェーンの一例

DMXターミネーター

コネクタとケーブル

DMX 512の規格ではキャノン5ピンのコネクタの使用が規定されます。しかし、これが最もよく無視される規定です。キャノン3ピンのコネクタもよく見られますし、珍しくホーン・コネクタを搭載する器具もあります。5ピンを3ピンに変換するアダプターを使えば、異なる端子を持つ機器を同じデイジーチェーンに接続する事が出来ます。さらに、規格に反してピンの極性を逆にする機器もあります。その為、極性(polarity)が変えられるコントローラがあります。しかし、極性の異なる機器は同じデイジーチェーンに接続する事は出来ません。


キャノン5ピン→3ピンの変換アダプター

キャノンの3ピン・コネクタはアナログ・オーディオで頻繁に使われます。コネクタが全く同じですのでオーディオ・ケーブルをDMX端子に挿す事は物理的に可能です。しかし、オーディオ・ケーブルはDMX 512に不適合です。DMX 512規格はケーブルのインピーダンスを120Ωに定めます。インピーダンスとは電子信号に対する抵抗で、ケーブルと電子回路などのインピーダンスが異なれば(インピーダンス不整合)、デジタル信号にエラーが発生しやすくなります。アナログ・オーディオはインピーダンス不整合の影響を受けにくいのでオーディオ・ケーブルのインピーダンスが表示される事は殆どありません。おおよそ50Ωが一般的で、DMX 512の120Ωとの差が大きいのです。ネットワーク・ケーブルとして広く使われるCat 5ケーブルがDMX 512信号に適合しているかどうか1998年に実験が行われました。通信に全く問題が見られなかったとの結果で、キャノン・コネクタを付ければCat 5ケーブルが利用できます。また、デジタル・オーディオ通信規格のAES/EBUではキャノン・コネクタの110Ωのケーブルが用いられるのでDMX 512ケーブルがなければAES/EBUケーブルで代用できるでしょう。

DMXの3ピンキャノン端子とアナログ・オーディオのキャノン端子:入出力のオス・メスの割当が逆

電子信号が異なったインピーダンスのケーブルや回路を通過すると水面の波紋がプールの壁にぶつかるように一部が返されます。その返された信号が通信エラーの原因です。アナログのオーディオ信号は波長が非常に長い(数キロ)のでインピーダンスの不整合による反射の影響が少ないのです。

データ形式

DMX 512のデータ・プロトコルは極めて単純です。コントローラが発信するパケットの単位はスロットと言います。1スロット=8ビット。パケットの最初のスロットはスタート・コードと言い、データの種類を指定します。残りはデータ・スロットです。データ・スロットの事をチャンネルとも言います。チャンネルは24〜512送信できますが、使われなくても全512チャンネルを送信するコントローラが多いです。

デイジーチェーンのそれぞれの機器にスタート・アドレスを指定します。パケットを受信すればデータ・スロットを数えていきます。自分のスタート・アドレスにあたるチャンネルに反応します。単純な機器は1チャンネルで制御できますが複数のチャンネルを要する機器もあります。例えば、スタート・アドレスが12で6チャンネルを要する機器は12番〜17番目のスロットに反応します。

機器のスタートアドレスはディップスイッチやLEDメニューで指定します

受信されたデータにどう言う風に反応するか機器によって違います。ライトの強弱を調整するディマーなら1チャンネルが1つのライトの明るさを指定します。ゴボ(投影される模様)が交換できる機器は各ゴボに番号を与えてDMXデータの値によってゴボを変えます。

データは一方的にコントローラから発信される為、問題なく受信されたかどうか確認できません。その為に花火など危険な舞台効果の制御に使用してはいけません。

参考

日本語:
DMX512について
DMX 512-A
DMX512-A – Wikipedia

英語:
DMX 512 FAQ
Report on DMX 512 Over CAT 5 Cable.
Wikipedia: DMX 512-A